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「分散登校」で教員が気づいた「ゆとり」を失ってはいけない

第29回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■教育現場がブラック企業で良いわけがない

 2019年12月24日に文科省が公表したところによると、2018年度に鬱などの精神疾患で休職した公立学校の教員数は5,212人にのぼった。前年度にくらべて135人の増加で、2年連続の増加だったという。

 これらは最近の傾向ではなく、2007年度から精神疾患で休職する教員の数は5,000人前後という状態が続いている。その大きな原因は、教員の多忙化である。休み時間も子どもの姿が目に入らないほどの仕事量に追われ、家族と一緒の夕飯も珍しくなるくらいの残業を強いられていることが、教員に「心のゆとり」を失わせ、精神疾患に追い込んでいる。「子どものために」頑張ってしまう

 数字には表れていないが、休職の手前でギリギリ踏みとどまっているような教員も多いだろう。そんな精神状態の教員が、学校で子どもたちに接していることになる。それが子どもたちにとっても良い環境であるはずがない。だからこそ、教員の働き方改革は進めなければならないのだ。

 緊急事態宣言が解除されて学校が再開されていく過程において、当初こそ分散登校になっているが、「コロナ禍以前の学校」に戻る動きが加速されている。緊急事態宣言の一部解除を受けて、前述の教員の学校のような、いち早く始まった分散登校とは様子が違うかもしれない。一日も早く、教育課程を完全実施するこれまでの学校に戻るためのプロセスでしかないからだ。

 しかし、そこには「教員の働き方」を改善するプロセスは見えない

 5月14日付の「通知」で文科省は、工夫しても年度当初に予定していた指導を年度中に終えることが困難な場合、「令和3年度又は令和4年度までの教育課程を見通して検討を行い、学習指導要領において指導する学年が規定されている内容を含め、次学年又は次々学年に移して教育課程を編成する」としている。ただし、進学を控える最終学年は、あくまで今年度中に終えるという方針ではある。

 とはいえ「先送りしていい」と文科省は言っているのだ。それにもかかわらず、「本年度中の学習は本年度中に終える」という方針を早々に明らかにしている教育委員会も少なくない。テストの点数を評価の主体にする「学力」が気がかりな教育委員会が、「先送り」は全国順位の低下となって表れる学力低下につながることを気にすることは予想できることである。文科省は「先送り」を口にするならば、教育課程を減らす具体案を示すべきなのではないか。

■教員にゆとりのない学校に戻るのか

 すし詰め状態の教室でも授業が行えるように教員がフェイスシールドを着けたり、給食の際に子どもたち一人ひとりをフェンスのようなもので囲ったりなどの「工夫」を行っているところもある。これには賛否両論あるものの、通常どおりの教室での授業を早く再開したい、教育課程を終えるにはそこまでやるしかない、という学校現場の悲痛な想いを感じることができる。

 再び、教員や子どもたちは、教育課程に縛られ、追われる忙しい日々に追い込まれつつある。休校中の「遅れ」を取り戻すために、通常よりも忙しい日常を強いられることにもなるだろう。いち早く実施された分散登校で教員たちが実感した「心のゆとり」は、あっけなく失われることになる。

 それでいいのだろうか。分散登校時に感じた「心のゆとり」を「日常」にしていく努力が教員にも必要とされるのではないだろうか。教員としてどうしていくのか、新型コロナをきっかけにして発せられている「問い」かもしれない。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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